先日新聞に「診療報酬、AIが審査」という記事が掲載された。2022年度までに審査の9割をコンピュータで処理することが目標らしい。そもそもAI(人工知能)のことが新聞に載らない日はない。とくに医療分野との関連記事が多い気がする。技術の進化はご存じの通り、AIによる画像診断から、癌患者の遺伝子診断や治療方法を提示するシステムまで目覚ましい。AIの進化は近い将来、われわれの仕事に大きな影響を与えることは間違いなさそうだ。今回、医療とAIについて考えてみた。 アンドロイドの研究で有名な石黒浩氏は著書で「医療分野はそのほとんどがAIとロボットになる」と断じている。医療の中にはAIのほうが勝っている分野があり、AIの進化により医師は職場を追われるか給与がみるみるうちに落ちていく。だから医師の中でも先見の明がある人は危機感を持ち、悩んでいるのだと論じている。 AIは医師の仕事を奪ってしまうのだろうか。手塚治虫の「ブラックジャック」に『U 18は知っていた』という作品がある。電子頭脳(ブレイン)が全ての患者を管理している病院での話だ。患者の治療・手術を行っているコンピュータ「U 18」が故障し、その修理(治療?)をブレインから指名されたブラックジャックが行うという話である。内容の詳細は省略するが、主旨は医療の担い手がコンピュータ(機械)にとって代わるという未来予想ではなく、機械のように患者を診察し、治療することは許されないというメッセージである。私たち「ブラックジャック」を知る世代にとってはAIが医師の仕事を奪ってしまうことなどありえないし、考える必要すらないと思ってしまうのは当然だ。ところが近年のAIの進化のスピードは私たちの想像以上に早く、機械が診断と治療を行う時代が目の前にきている。 人間にできてAIにできないことは何なのだろうか。京都大学各員准教授の滝本哲史氏が中学生向けに書いた著書、「ミライの授業」には「課題解決」はコンピュータやロボットの得意分野であり、これからの人間に必要な力は「課題発見」であると述べている。東京大学教授(経済学研究科)の伊藤元重氏は、働き方には肉体労働を代表とする「レイバー」と組織の中で与えられて高度な仕事をこなす「ワーク」と自らの意志で主体的に動いていく「プレイ」だと解説している。人間にあってAIにないのが主体性であり、これからの人間の働き方は「プレイヤー」として仕事を行うことだと述べている。 AIだけが診断し、治療を行った医療行為をAIがレセプト作成し、それをAIだけが審査するという変な時代にならないようにしなければいけない。今日のAIの進化に関する報道を一過性のものと切り捨てずに、AIの利点は受け入れ共存し、少子高齢化社会を生きる現代の患者の健康に貢献できるように現役医師である私たちが真剣に医療のありかたを変え始めていく時代にすでに突入していると思う。 (理事 南里 正晴)
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